大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和50年(う)38号 判決 1977年3月15日

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金八千円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金千円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収してある選挙用ポスター四枚(当庁昭和五〇年押第一七号の二乃至五)を没収する。

当審及び原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

被告人に対し、公職選挙法第二百五十二条第一項の選挙権及び被選挙権を有しない期間を一年に短縮する。

理由

(中略)

二、そこで所論にかんがみ、記録を精査し、先ず本件の事実関係を検討してみるのに、原審において取調べた証拠及び当審における事実取調の結果を総合すると、以下のような事実が認められる。

1  被告人は、本件当時県南バス釜石営業所に観光係長として勤務し、同社従業員をもって組織された県南バス労働組合釜石支部長をしていたものであるが、同組合は従来から支持政党を日本社会党と決め、各種選挙に際しては同党の公認候補を推薦決定し、その支援活動を行うのを通例とし、被告人もまた本件以前において同組合本部の指示に基き、同組合推薦にかかる候補者の選挙運動に従事した経験を有していた。

2  ところで同組合が右推薦決定を行うについては、通例同組合定期大会で支持政党の決定を行い、個々の選挙における具体的な候補者の推薦は、右大会若しくは本部中央委員会において議決した上、さらに各支部毎に全組合員の確認を受けるという趣旨で、支部大会において更に推薦決議をするという手続がとられていた。同組合は機関紙として、月刊あるいは隔月刊の「結集」とその臨時速報版ともいうべき「速報結集」とを有して各種教宣活動に利用していたが、右の如き選挙における推薦候補者の決定に際しても、右機関紙に推薦候補者の略歴等を記載し、これを組合員に配付する等して、その周知徹底方をはかっていた。

3  而して同組合は、本件選挙においても、日本社会党の公認する候補者を推薦決定してその支援活動にあたる方針であったところ、同組合加盟の上部団体である私鉄総連が右選挙に関して日本社会党公認の全国区立候補予定者伊部真を推薦決定したことを受けて、昭和四十五年九月三十日及び十月一日の二日間にわたって開催された同組合定期大会において、全国区については右伊部真を推薦することに決定し、釜石支部においても、同年十二月開催の支部大会において同様の決議をなしていた。他方右選挙における岩手地方区の立候補者については、日本社会党の公認が遅れた関係もあって昭和四十六年三月二十三、四日頃開催の同組合本部中央委員会において、同党公認の立候補予定者小川仁一に対する推薦決定がなされた。これら推薦決定に伴い、各候補者の略歴等は前記機関紙を通じて組合員に伝達された。

4  被告人は、同組合釜石支部長として、同年六月開催予定であった同支部定期大会において右小川仁一推薦の件を議題として提出して承認を得たいと考え、前記中央委員会の開催された数日後に、当時同組合本部書記長をしていた川辺久男に電話をかけ、同支部大会で推薦候補の承認をするにつき討議資料として使用するため組合員らにわかり易い文書を作って欲しいと依頼した。川辺書記長は、被告人からの右依頼に応じて同組合本部書記次長佐々木義に指示して謄写印刷で本件文書約三百枚(当庁昭和五〇年押第一七号の二乃至五は、その一部)を作成させ、その頃同社バスで釜石支部宛発送した。

本件文書は、縦約三十センチメートル、横約二十三センチメートルのざら紙を使用し、右半分に「全国区は、まこと」、行を変えて「伊部真」、左半分に「地方区は、おがわ」、行を変えて「小川仁一」とそれぞれ縦書きし、右各候補者の漢字書き氏名のみを肉太の文字としてその各上方に各候補者の写真を掲げ、用紙下部に横書きの小文字で「岩手県南バス労働組合」、「岩手県南バス労働組合家族会」なる名称を二段に記載した謄写刷りのものである(当庁昭和五〇年押第一七号の二乃至五参照)。

5  被告人は、同組合の他の役員らと共に、右伊部真候補の選挙用ポスターを釜石市内に貼ったり、また小川仁一候補の選挙運動用自動車が釜石市内に来訪したときはこれを出迎えて随伴する等右両候補の選挙運動に従事していたが、本件選挙公示後の同年六月二十四日原判示場所で開催された同組合釜石支部大会に支部長として出席した。その時の模様は次のようなものであった。

同大会は、あらかじめ議題を、(1)臨時給配分の件、(2)ダイヤ改正の件、(3)その他と定めて三日位前から組合掲示板などにより組合員に周知させてあったが、被告人は、当日午後七時三十分過ぎ頃、かねて組合本部から送付されていた本件文書約三百枚を携えて会場に出席した。大会は午後八時頃から開会され、最初に同組合本部執行委員の古屋敷卓造から臨時給配分の件について提案説明があって承認され、次に同支部中央委員浅野由美からダイヤ改正の件について提案説明がなされ、討議の後同日午後九時五十分頃右案件を議了した。その後被告人から本件選挙について提案がある旨の発言がなされ、引続き被告人は、要旨「今回の参議院議員選挙は大事な選挙である。組合では本部中央委員会で全国区伊部真、地方区小川仁一各候補を推薦決定した。全国区については前の大会で承認して貰っているが、地方区についてはまだ承認を貰っていないので本大会で承認して頂きたい。選挙には推薦候補を当選させるようお互に頑張りましょう。」と述べ、さらに、地方区も全国区も苦戦しているので協力してほしい、これから配るポスターは各自で自宅に持ち帰り自宅室内の皆の見える場所に掲示して貰いたい、後で皆が協力して貼ってくれているかどうかを確認するため、各家庭を役員が訪問する等という趣旨の話を付加し、その間に役員席の方から出席している組合員らに対し、前から順次手送りの方法で本件文書を一人一枚宛配付した。被告人の右発言については異議なく承認せられ、当夜午後十時頃支部大会は終了した。被告人の右提案について、当夜本件文書を資料にして格別の討論が行われたり、各候補者の経歴、政見等についての補足説明がなされた形跡は窺われない(《証拠判断略》)。

なお当夜右大会に出席した組合員数は百三十四名、委任状のみの提出者は八十一名で、本件文書は前示のような手送りの方法で一人一枚宛わたるよう配付されたが、出席者のうち約六十四名は女子車掌等未成年者であり、自宅に持ち帰らなかった者もあり、結局五十名乃至六十名の者が持ち帰ったものと認められる。

6  右配付された本件文書については、自宅常居六帖の間の柱の釘に差し込んで掲示したり(佐藤俊則)、茶の間に貼って掲示したり(吉田哲)、居間に画鋲でとめて掲示したり(千代川哲夫)、あるいは玄関正面の壁に掲示(大森政人)した事例が認められ、右大森方に掲示されていた本件文書は、当時釜石警察署に勤務していた警察官佐々木永夫によって同月二十六日現認されている。

7  本件以前に同組合が選挙に関連して本件と同種の文書を配付したことは、昭和三十八年頃岩手県知事選挙に際し同組合推薦の候補者の写真等を掲載した文書を全組合員に配付したことが窺われるのみである。また本件文書は、前示のように被告人の要請によって作成され、同組合釜石支部において配付されたのみで、他の支部には配付されていない。

三、ところで公選法第百四十二条第一項(ちなみに同法第百四十二条第一項・第二百四十三条第三号の規定が憲法第二十一条第一項に違反するものでないことは、夙に最高裁判所判例の存するところである。最高裁判所昭和三十年四月六日大法廷判決・最高裁判所刑事判例集第九巻第四号八百十九頁、同昭和四十四年四月二十三日大法廷判決・同集第二十三巻第四号二百三十五頁参照。)に所謂「選挙運動のために使用する文書」とは、当該文書の外形内容それ自体からみて選挙運動のために使用すると推知され得るものを指称するのであって、選挙運動のために使用されることが、その文書の本来の、ないしは主たる目的であることを要するものではなく、またその選挙運動において支持されている候補者は必ずしも一人であることを要するものではなく、複数人であってもそれが特定されていれば足るものと解すべきである(最高裁判所昭和四十四年三月十八日第三小法廷判決・最高裁判所刑事判例集第二十三巻第三号百七十九頁参照)。換言すれば、ある文書が「選挙運動のために使用する文書」であるかどうかは、先ず当該文書の外形内容自体を観察検討して決定されるべき事柄であって、その具体的用法の如何、すなわち頒布の時期、方法、態様、相手方、頒布者の意思、目的の主従を問わないのである。

そこで右見地に立って検討してみるのに、本件文書の外形内容は前二、4のとおりであって、「全国区は、まこと伊部真」、「地方区は、おがわ小川仁一」と記載して参議院議員選挙における全国選出、地方選出各議員候補者であることを明らかにした上右両候補者の顔写真を掲げ、且つ両候補者の漢字書き氏名の部分には特別大型の肉太の書体を用いて強調し、岩手県南バス労働組合の外同組合家族会の名称をも記入する等これらの記載事項及び写真を総合して全体を観察すると、これは明らかに本件選挙において右両候補者を推薦し、その支持とこれに対する投票を求める趣旨のものだといわざるを得ず、討議資料というよりは、原判決もいう「選挙ビラ」乃至は選挙用ポスターというべきものであって、一見して前示の意義において「選挙運動のために使用する文書」と認められることは、所論のとおりであるといわなければならない。

原判決は、労働組合が、政治的・社会的活動の一環として、各種選挙において自らの利益代表を議会に送り出すため、特定の候補者を推薦してその支援活動を行うことを決定し、これを下部組織若しくは組合員個々人に伝達周知せしめる等の所謂候補者推薦活動を行うことは許されるとして、本件文書の配付当時の諸事情を検討しつつ、本件文書の主たる目的、性質は、右のような意味における組合内部における候補者推薦活動に伴う討議資料であるとする所以を縷々判示している。しかしながら前示のように、ある文書が選挙運動用文書であるかどうかの判断は、その文書の具体的な使用目的、用法等の如何を問わず、先ず当該文書の外形内容それ自体を検討してなさるべき筋合のものであるから、この点についての判断を経ておらず、しかも本件文書の使用目的、使用方法等の検討とからめてその性質を論述している原判決は、その限りにおいて、相当でないといわざるを得ないのみならず、後記四に説示のとおり、本件文書の主たる性質をもって、前示のような趣旨における討議資料とすることには疑問があり、肯認し難いところである。

四 而して公選法第百四十二条第一項は、同条項所定の文書を選挙運動として頒布することを禁止したものであって(前掲最高裁判所昭和四十四年三月十八日判決参照。)、そこにいう選挙運動とは、特定の公職の選挙につき、特定の立候補者又は立候補予定者に当選を得させるため投票を得若しくは得させる目的をもって、直接又は間接に必要且つ有利な周旋、勧誘その他諸般の行為をすることをいうものと解されるところ(最高裁判所昭和三十八年十月二十二日第三小法廷決定、最高裁判所刑事判例集第十七巻第九号千七百五十五頁)、これによれば、特定の公職の選挙が予定され、特定の人がその選挙に立候補し、又は立候補が予定されているとき、その特定の人を他の個人又は団体等が当該選挙において支持すべき候補者として推薦することを決定したことについて、かかる推薦候補者決定の事実を団体の構成員に伝達し、あるいは確認を求める等して周知徹底をはかるために、前示の意義における「選挙運動のために使用する文書」を配付する行為は、特別の事情のない限り、当該候補者を当選させるための投票獲得の目的をもってする必要且つ有利な行為として同条項にいう選挙運動のためにする頒布に該当すると解するのが相当である。この理は、労働組合とその構成員に対しても等しく及ぶものであることは言うまでもないところであって、労働組合が、原判決のいうように、労働者の経済的地位の向上という主目的を達成するために必要な限度で政治的活動をすることが許されるとしても、その活動が法に従って適法に行われることを要することは当然であり、同条項所定の文書を選挙運動として頒布することは、労働組合もしくはその構成員としても許されるべきことではない。従って、労働組合が特定の公職の選挙において特定の候補者の推薦活動をすることが許されるとしても、そのための活動であればいかなる文書を配付してもこれを問わないという筋合のものではなく、その行為が当該候補者の当選を得若しくは得しめる目的を以ってする運動若しくはかかる運動の目的を兼ねたものと認められ且つ当該文書が前示の意義における選挙運動用文書であるときは、右法条の適用を受け、その規制に服さざるを得ないのである。そしてこのことは労働組合内部におけるその構成員を対象とする文書頒布についても同様あてはまるものというべきである。(東京高等裁判所昭和三十九年三月十一日判決、高等裁判所刑事判例集第十七巻第二号百九十八頁参照)。

以上のような立場から、次に被告人の本件文書配付行為が選挙運動としてなされたものかどうかについて検討するに、本件文書がその外形内容において「選挙運動のために使用する文書」と認められることは、前段説示のとおりであるところ、さらに前示二認定の諸事実によって考察するに、本件文書には前記両候補者ことに小川仁一についての政見、経歴等の記載が一切ないことは所論指摘のとおりであって、労働組合内部における候補者推薦のための討議資料とするものとしてはいかにも内容に乏しく、むしろ紙質、印刷の良否に拘らず選挙用ポスターというべきものであり、もし推薦決定をするための討議資料というのであれば、伊部真については、前示の如く既に釜石支部においても推薦決定済みであったのであるから、敢えて小川仁一と併記してポスターまがいのものを作成する必要はなかったとする所論も肯けるところである。また本件以前に選挙に際して本件文書と同様の候補者の顔写真入りの文書が配付されたことは、昭和三十八年頃岩手県知事選挙のとき一回あったことが窺われるのみであって(前示二、7、なお原審証人川辺久男は、その時配付された「文書」について、いみじくも「観賞ポスター」と俗称し、告示後組合員の各家庭に貼って、間違いのないように確認し合って選挙戦を戦ったという趣旨の供述をしている。原審記録五百三十四丁裏。)、本件文書が釜石支部においてのみ配付されている事実と相俟って、この種文書を「討議資料」として配付することが、県南バス労働組合内部における慣例であったとまでは考えられない。そして同組合が右両候補者の推薦を決定したということやその経歴等については組合機関紙を通じて既に本件以前から組合員らにとっては既知の事実であったこと(前示二、3)、本件文書配付の際特に討論あるいは補足説明等の行われた形跡はなく、被告人において自宅に持ち帰って貼るように指示していること(前示二、5)、被告人自身としては「討議資料」もしくは「資料」の作成方を川辺久男に依頼し、本件支部大会の席上にも「討議資料」もしくは「資料」として携行したというのであるが、本件当日しかも支部大会開催直前にはじめて本件文書の内容を知ったというのであって(検察官及び昭和四十六年六月二十九日付司法警察員に対する各供述調書)、その内容について「これを見れば選挙用であり全国区は伊部真に、地方区は小川仁一に投票するようにという意味であることは一目瞭然な訳です」(右司法警察員に対する供述調書、原審記録六百五十二丁裏)、「一目見て全国区は伊部、地方区は小川に投票してくれという意味であることが感じられる文書」(右検察官に対する供述調書、同六百六十六丁)あるいは「一目見て貼っておくビラのようなものですから・・・」(同調書、同六百七十丁)等と供述し、原審公判廷においてもその趣旨について「我々は、とにかく、全国区は伊部真、地方区は小川仁一に投票しようという意味だというふうに、一目りょう然にわかる」ということでやった旨の供述をしていること(同六百十七丁裏)等の諸事実をあわせ考えると、本件文書が釜石支部における小川仁一推薦決定のための資料としての性質も持っていたことを全く否定することはできないにしても、その主たる目的・性質が、原判決のいうように、県南バス労働組合内部においてこの種選挙の際に配付することを慣例としていた候補者推薦のための討議資料であるとは考えられない。むしろ、本件文書の配付が本件選挙の公示後投票日の僅か三日前に行われたこと、被告人の配付の際の言動ことに同組合の推薦した前記両候補が苦戦しているのでお互に協力して頑張ろうという趣旨の発言をしていること、配付の直接の対象は組合員のみであったにしろ、本件文書には同組合家族会の名称も掲記せられていることから、当初より組合員以外のその家族ら外部関係者へも流布されることを予定していたとも考えられること等の事実の認められることからして、本件所為は、労働組合内部における日常的な教宣活動の一貫として把握されるべきものというよりも、主たる目的は単に前記両候補者を当選させるために、組合員やその家族ら関係者の支持、投票を得ようとして配付されたものであって、真実通常行われる推薦決定のなされることのみを期待していたものではなく、殊更に労働組合内部における推薦決定の討議資料のみにする意図によるものではなかったものと解されるのであり、従って被告人の本件所為は、明らかに選挙運動に当り、選挙運動用文書の頒布であるといわなければならない。

五 従って、被告人の本件所為が公選法第百四十二条第一項に違反し、同法第二百四十三条第三号に該当することは明らかであり、叙上の事実関係からすれば、右所為が同法条によって処罰されるべき程度の違法性を十分に具備していることもまた否定できないところである。原判決は、(1)本件文書が主として県南バス労働組合内部における候補者推薦決定のための討議資料としての性質を有するものであり、被告人の本件頒布行為も右候補者推薦活動であって殊更な選挙運動を目的としたものではないと考えられること、(2)本件文書の記載内容まで被告人が具体的に指示したわけではないこと、(3)本件文書は支部定期大会の席上において他の案件に付随して直接的には組合員のみを対象として配付されたものであって、外部に流布される可能性があったとしても、それは組合員の家族に限られていたこと、(4)被告人としては本件文書の配付につき、従前の選挙運動と対比して特段の抵抗を感じていなかったこと、(5)本件文書配付当時の被告人の発言も推薦決定の趣旨を徹底させるためのもので、不用意のそしりを免れないにしても、特に異例とは解せられないこと、(6)配付枚数も約五十枚という少数であって、その体裁も、ざら紙にやや不鮮明な謄写印刷で作成された程度の文書にすぎないこと等の諸事情を総合して、被告人の本件所為が、労働組合における候補者推薦活動として許される文書使用の限界を逸脱し、公選法第百四十二条による規制の対象を帯びるものといわざるを得ないとしながらも、その逸脱の程度は実質的に軽微なものにすぎず、所謂可罰的違法性がないと判断しているが、右(1)(5)の点は叙上説示のとおり当裁判所の採るを得ないところであり、その余の諸事情も、たとえ原判決の判示するとおりであるとしても、単に犯情に影響を及ぼすに止まり、右の違法性を失わせる事情となるものということはできない。従って原判決の右判断は、前記各法条の解釈適用を誤ったものというべきである。

六、以上の次第であって、結局原判決は、前記三及び四に説示したところから明らかなとおり、些か事実の認定において曖昧の譏りを免れない点はあるが結論において被告人の本件所為が公選法第百四十二条第一項の規制の対象となることを認め、その上で右所為が所謂可罰的違法性があるとは認め難いとして被告人に無罪を言渡した点において前記各法条の解釈適用を誤った違法がありこれが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

よって刑事訴訟法第三百九十七条第一項、第三百八十条により原判決を破棄し、同法第四百条但書により、更に次のとおり判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四十六年六月二十七日施行の参議院議員選挙に際し、全国区から立候補した伊部真、岩手地方区から立候補した小川仁一の選挙運動者であるが、右両候補に当選を得させる目的で、同月二十四日岩手県釜石市甲子町野田地内岩手県南バス株式会社釜石営業所構内旧検車場建物で開催された岩手県南バス労働組合釜石支部大会の席上において、同支部組合員板沢利雄等約五十名に対し、「全国区は、まこと伊部真」「地方区は、おがわ小川仁一」と記載された同人らの写真入り選挙運動用ポスター(無証紙)約五十枚(当庁昭和五〇年押第一七号の二乃至五は、その一部)を配付し、もって法定外選挙運動用文書を頒布したものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は、昭和五十年法律第六十三号(公職選挙法の一部を改正する法律)附則第四条により同法による改正前の公選法第二百四十三条第三号・第百四十二条に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、その所定金額の範囲内で被告人を罰金八千円に処し、刑法第十八条により右罰金を完納することができないときは、金千円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、押収してある選挙用ポスター四枚(当庁昭和五〇年押第一七号の二乃至五)は、判示の犯罪行為を組成した物で犯人以外の者に属しないから、同法第十九条第一項第一号第二項によりこれを没収し、当審及び原審における訴訟費用は、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用して全部被告人に負担させることとし、諸般の情状を考慮し、公選法第二百五十二条第四項により、同条第一項に定める選挙権及び被選挙権を有しない期間を一年に短縮する。

よって主文のとおり判決する

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例